目 次
高断熱住宅の失敗 夏 編
高断熱住宅はいいことばかりなのかといえば必ずしも、そうではありません。
予想外の失敗や予期しない出来事が起こったりします。
ここに掲げた失敗事例は主に東北関東で過去にあったことです。
これがすべてではありません。
私たちは、失敗事例を分かち合って次の現場に臨んでいます。
同じような失敗が起こらないように勉強しています。

事例1
素晴らしい眺望を期待した窓なのに、
夏は灼熱の家になってしまった
今から15年位前、高断熱住宅が本州に知られてから未だ間もない頃、勇んで建てたこの家、初めて迎えた冬は工務店の思惑通りみんなが小躍りして喜びました。
広々として暖かく真冬になってものびのび暮らせて、冬の雪景色が絵のようにきれいに見える日もありました。
家族のだれもが高断熱住宅のすばらしさを褒め讃えました。
ところがその年、夏が近づくにつれて事態は一変しました。
5月が過ぎ6月になると朝から部屋の中が暑いのです。7月になると状況はさらに悪化、窓を開けてもカーテンを閉めても部屋の中は一日中暑い。
夜になっても暑さは抜けません。
施主さんはついに工務店に駆け込みました。
「工務店さん、私は朝の4時からお日さまと格闘しています。何とかしてください」

▪️原因はコーナー窓
原因は写真白丸部のコーナー窓でした。
れっきとした高断熱のプラスチックサッシです。
写真は南面で、この窓は各コーナーから直角に同じ形でガラスになっています。
それが東西に面しているので、朝は日の出から夕は日の入りまで日が当たるのです。
日の出日の入りの太陽は庇を付けても防ぎようがありません。
こうなると真夏のビニールハウスのようなものです。
高断熱住宅普及の初期にあった典型的な失敗例でした。
事例2
郷に入っては郷に従え
何でこっち向きに家を建てるの?
次は私たちの直接的な失敗ではありません。
しかし、余計なお世話と云われても心配してしまう家です。
ほぼ真東向きに建築したため8月7日の朝9時なのに家の真正面から日が当たっています(写真①)。
これでは夜明けの午前5時から真夏の日に照らされていることになります。
この家が午後になると(写真②午後1時)南側も庇がないので日は当たりっぱなし。
これでは日射熱は家の中にたまり放しで家が暑くなるばかりです。
夏はいつでもレントゲン室を連想させるような厚いカーテンに覆われています。相当暑そうです。
周囲の家は全部前を向いているのに一軒だけ横を向いているようなもの。郷に入っては郷に従えとはこういうことをいいます。家は南に向けたい。

写真①

写真②
事例3
トップライトは諸刃の剣
夏の高断熱住宅にとって、天窓は諸刃の剣です。
涼しく暮らすのに必須だという人もいれば、暑くなるから使わない方がいいという声もあります。
どちらも事実だからそういう意見が出るのです。
天窓(トップライト)は排熱に便利。
ただし配置場所や開閉方法、遮蔽対策の選定には注意が必要です。
設置場所は北側とし、開閉式を選定した上でブラインドなどの遮蔽グッズをつけるのが一つの基準。



事例4
たった1窓(いっそう)で夜も眠れず
幕末、東京湾にペリーが来航したとき、「太平の眠りをさます上気撰たった四杯で夜も眠れず」という落首がありました。
上気撰とはお茶のことです。
高断熱住宅ではたった1つの西窓で夜も眠れなくなるほど部屋を暑くすることがあります。
西窓は要注意です。

夏、西の壁についた窓には夕方七時までしっかり日が当たる。
たった60cm角の窓を一カ所だけなのに2階が猛烈に暑くなって夜も眠れない家があった。
西側の窓は小さいからと侮らない方がいい。

西の壁に窓がない。
これは高断熱住宅の夏対策の一つでもある。
西に隣家があれば日よけと考えればいい。
酔狂で窓を付けなかったわけではない。

高断熱住宅の失敗 冬 編
1. 暖かくならない、暖かくない
Q 高断熱住宅だといわれたのに暖かくならない
Q こんなものなの?
Q 吹き抜けにしたら暖まらない
■10畳用のストーブで30畳の部屋暖まりますか?
暖房機(エアコンやストーブ)のカタログをみると、それぞれ何畳までが適用範囲か記載されています。(下図1なら木造10畳まで)今までの住宅をもしこのストーブ1台で30畳の部屋を暖房したら全体は暖まりません。
必要とする出力が足りないからです。
このように、必要な容量に足りない暖房をしていたら(あるいは暖房そのものをしなかったら)いくら高断熱住宅だからといっても部屋を暖かくすることはできません。
■高断熱住宅は必要暖房容量が計算できる
これまでの住宅は断熱性能をきちんと計算することができませんでした。
したがってどれだけの暖房機を使えばいいのか不明で、何畳までとかアバウトな表現になっているのが実情です。
ところが、ちゃんとした高断熱住宅は断熱性能が計算できるので住宅の断熱性能を建設地の気象条件に合わせた必要な暖房容量を設備することができます。
■高断熱住宅なら10畳用で住宅全部を楽々暖房可能
その計算によれば、実は東海北陸くらいであれば、図1のストーブ1台で容量的には全室暖かくすることができます。
高断熱住宅とはそういうモノなのです。
日射の多い地域ではちょっとの暖房で寒さ知らずの冬を過ごせます。
■それでも寒いのは、原因は他に
「高断熱住宅なのに寒い」原因は大きく2つあります。
1つは、必要な暖房量に達していないこと。
2つめは、断熱性能が計算通りに発揮されていない。つまり、断熱材が効いていなかったり、どこかから熱が漏れている場合です。つまり、断熱気密の施工に問題があるケースです。
私たちは、原因のほとんどが後者にあると考えます。
施工業者の選び方が重要です。
暖かいけど暖房費がかかりすぎる
暖かいのは暖かいけれど暖房費が予想外にかかるというケースがあります。
原因は
①断熱性能が不足している
②計算通りの性能が出ていない(不良施工)
③暖房の設定温度が高すぎる
等が考えられます。
冬、日射が多い地域では冬の日射が多いので、日射熱を取り込む設計や日射熱を透過しやすいペアガラスを使うとより省エネで暖かく暮らすことができます。
ペアガラス種の選定は非常に重要です。
暖房している部屋は暖かいけど、廊下もトイレも寒いのはなぜ?
暖房している部屋は暖かいけど、廊下もトイレも寒いのはなぜ?
高断熱住宅とはいえ暖房しなければ暖かくなることはありません。
が、少しの暖房で全室暖かくできるのも高断熱住宅です。
暖房計画をちゃんとすれば廊下やトイレも暖かくなります。
床暖房が必須ということはありません。
エアコン1台で全室暖かい家もできます。
最近ではエアコンを床下に放熱して暖房する家もあります。
2. 足下が何となく冷たい
「解説と対策」
ガラスの断熱性能は弱いので、冬は室内の表面温度が低下し、窓ガラスの周辺は寒くなります。
冷やされた空気が床近くを這うように動くのです(コールドドラフト)。
床で断熱してあっても足元が寒く感じます。
高断熱住宅では特に家が暖かいので、少しの冷たさも感じやすくなります。
対策として、ガラス面積が大きな窓ほど、ガラスの性能を上げる(機能ガラス)等があります。
窓の性能を十分に上げられない場合は冬場の曇りの日や夜は断熱スクリーン・障子等で窓を塞いだり輻射暖房機を窓下に設置するなどの対策が効果的です。
コールドドラフト対策は設計段階で計画しておくことが重要です。
3. 外は日射しで暖かそうなのに家の中は何となく寒い
「解説と対策」
高性能ペアガラスには大きく2つの種類があります。
直射熱を通しにくいタイプ(遮熱タイプ)とよく通すタイプです。
前者を使うと、冬場、窓から入る日射熱を40〜50%もカットしてしまいます。
南側に遮熱タイプの高性能ガラスを使うと太陽の日射熱が家の中に入らなくなってしまい、外は暖かそうなのに室内は何となく寒いという現象が起こります。
ガラスの種類も適材適所で選ぶことが大事です。
冬場の日差しは十分に取り入れられるように工夫しましょう。
ペアガラスの遮熱性能(AGCカタログ)

普通タイプ(透明)

遮熱タイプ
一般の透明タイプのペアガラスは日射透過率が約80%、遮熱タイプは40%と約1/2。
冬も遮熱するので、使い方を間違えるとせっかくのお日様を有効活用できない。
4. 野菜の傷みが早い
「解説と対策」
「高断熱住宅は、暖かくていいけど、野菜や果物が早く傷んで困る」この話は本当です。
家の中に寒いところがないので、野菜や果物が寒い家より早く傷みます。
ある工務店はこう言います。
「私たちは家中の温度差を少なくして、ストレスと感じるような場所をなくし、それでいて低燃費で暮らせる家という高断熱住宅を目指して作っています。となると、その中の野菜や果物は傷みが早くなるのは当たり前。必然です。」しかし、そう言ってはおしまいですので、解決策として家の一部に食品庫を作って対応しています。
<食品庫>
断熱しないスペースを家に接続してつくります。
室内との出入り口だけ断熱されたドアなどを使います。
食品庫は基本的に外気温とほぼ一緒になります。
生鮮食品の保管が気になる方は、設計時に食品庫を配慮した設計をして備えるのがいいと思います。
例① 陽当たりを避けて、北に配置。この場合断熱工事はしません。
東西は常緑樹を植えて陽当たりを遮ります。


高断熱住宅について
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- 住宅の暖冷房燃費計算プログラム QPEX(キューペックス)
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