新住協 中部東海支部

これからの住まいは
Q1.0住宅で全室冷房

これからの住まいは
Q1.0住宅で全室冷房

※Q1.0住宅とは

新住協が推進している高度省エネ型高断熱住宅。次世代省エネ基準で建てた場合と比較し年間暖房エネルギーが1/2~1/5に削減される。新住協では削減率計算プログラム(QPEX)も独自開発している。

施      工
横井建築
代  表
横井 大輔

主    筆
一般社団法人
新木造住宅技術研究協議会
理  事
会沢 健二

■はじめに

大阪、広島、名古屋、徳島、横浜の夏の暮らしを取材して

2018年の夏、私は名古屋、大阪、広島、それに徳島、横浜を加え計5か所6つの高断熱住宅を訪問し「猛暑地の夏の暮らし」を取材した。

大阪広島に行ったのは、連日35℃を超える猛暑日が続いた夏真っ盛りの8月初旬だった。

その訪問で私は全室冷房がスタンダードになる予感をもった。

高断熱住宅になると、ちょっとの冷房で今までの家とはまるで違う効きがあることは知っていたので、ある程度の冷房生活になっていることは予想していた。

だから、取材の1軒目では全室冷房していると聞いて「やはり、そうなったか」と思った。

2軒目の広島も全室冷房だった。そこでは施工した会員工務店に「お、やるなぁ」と思った。

それでもまだ関西の夏が全室冷房になるという思いには至らなかった。

そして3軒目の若夫婦の家で、「暮らしていたら自然にそうなった」と聞いて「もしかして、これが西のスタンダードになるのでは…」と思った。

そしてその後訪問した横浜、名古屋、徳島ともすべて、ほぼエアコン1台で全室冷房の暮らしをしたと聞かされて、「この流れは止まらない、全室暖房が寒冷地の標準になったように、暑い地域はこれから全室冷房になる」と確信したのである。

■自然発生的に全室冷房になった

その予感を強めた大阪府堺市の若い夫婦の家を少し詳しく紹介しよう。

若夫婦は建築の設計を進めている段階で全室冷房を計画していたわけではなかった。

設計士から「暖かくなりますよ、涼しく暮らせますよ」と言われて、そう思ってはいたが、まさか全室冷房で、しかも、終日、外出時も、結局暑い間はずっとエアコンをつけておく生活をするとは思わなかった。

しかし、気が付いたらいつのまにか自然発生的にそういう暮らし方になっていたのである。

6月に住宅が完成して入居、二人は高断熱住宅で初めて暮らす。

中旬になって大阪は暑くなった。二人は別々な帰宅時間である。

当初は帰宅してからエアコンをつけた。その日はとても暑い日で、先に帰宅していた奥さんがエアコンをつけていた。

そのあと帰宅した夫は玄関を開けると、涼しくてすごく気持ちいいと言った。

その時から、「今度は外出する時もエアコンをつけておこうか」ということになった。

その日がきっかけでエアコンは連続運転になった。

オープンな間取りなので自動的に全室冷房にもなって、何をどうすればどうなるか、色々工夫するようになった。

外出時は窓のカーテンを閉め、扇風機を回して冷気を攪拌させた方がいいとか、設定温度は27℃でもなく28℃でもなく、27.5℃が一番いいみたいだとか、自分たちの工夫で快適な全室冷房の暮らしができていったのである。

7月8月が終わってみて冷房の費用はそれほど多くはなかった。

「親もこんな暮らししていないのに私たちだけがこんな生活していいのか、最初は何か罪悪感のような感じがしたけど、お金が沢山かかるわけでもないし、ゆっくり休めて仕事に集中できるんだからいいかなと思った」二人はそう言った。

こうして、期せずして全室24時間冷房の暮らしになったのである。

高断熱を生かして夏を涼しく暮らす
木質感豊かな土壁の高断熱住宅

■灼熱猛暑の名古屋で超クールな暮らし

名古屋にはこんな話がある。

少し豪放に聞こえるかもしれないが、性能の高い高断熱住宅ではこういうこともできると理解していただきたい。

エアコン1台で全室冷房している名古屋のひとつの事例である。

灼熱の地獄という言葉がある。

カンカン照りの砂漠をフラフラになってさまようシーンを想い浮かべるが、平成30年の名古屋の夏はそのぐらい暑かったようだ。

灼熱の灼は、太陽に照りつけられて熱く灼ける状態をいう。

名古屋の夏は灼けるような暑さになる。

炎天下で息をすると喉をやけどするようだとまで言う人もいる。

果たしてどんなものかアメダスの気象データから今年の夏最高気温を拾って大阪や広島、東京と比較してみた。

するとたしかに高い。

しかも高い日が何日か続いてそれが何回もやってくる。

平成30年は7月16日〜18日、22日〜24日と8月2日〜8月9日の1週間が特に暑かった。

この期間最高気温の平均が実に38℃を超えている。

8月などは38、39℃を超える日が10日も続いている。

外は狂いだしそうな暑さというのがわかる気がする。

そんな名古屋に灼熱の暑さをものともせず、むしろ楽しむかのように涼しく暮らしている人がいる。

名古屋市昭和区に住む森口純一さんである。

平成26年にQ1.0住宅(面積は約60坪)を建て既に4シーズンの夏を過ごした。

正確には、「夏を涼しく暮らせる家ができた」という言い方の方が正しいかもしれない。

性能的に十分な家を、住みながら色々な工夫を加えて、より暮らしやすくしたからだ。
一体どんな暮らしになっているのか興味津々で、私は施工した横井建築(名古屋市)の横井辰幸、大輔さん親子と3人で森口邸を訪ねた。

夏も冬も快適に暮らしていると喜ぶ森口夫妻と森口邸

■サウナから水風呂への快感

私は聞いてみたいことを訪問早々尋ねた。
「ずいぶん涼しく暮らしていると聞きましたが冷房は何℃に設定しているんですか?」
「23〜24℃ぐらいですかね」
「えーッ、寒いんじゃないですか、そんなに低くては」
「いやいや、ちょうどいいんです。サウナの後、水風呂に飛び込む、あれですよ」 「サウナのあとの水風呂ですか?」 「そう、サウナから出て水風呂に入るとキンキンに冷たくて気持ちいいじゃないですか」 私は、次の言葉を戸惑った。
天気予報で最高気温が38、39℃という日でもコンクリートの上を歩いていると、温度はゆうに40℃を超えていて、ほんのちょっと歩いただけで肩から背中から火が付いたような熱さだそうだ。

だから23、24℃に冷えた家の中に入った時の快感は湯上りのビールみたいだという。

ちょっと豪快過ぎる感があるが、そのくらいでないと火照った体は冷めないのだろう。

森口さんの話を聞いていると本当にそうしたくなるような感覚になる(奥さんは当初寒すぎると笑っていたそうだ)。

■冷房手法

私たちが訪れたのは9月の初めだった。森口さんの豪快そうな雰囲気とは裏腹に室内はしんと冷えた感があった。

それにしても60坪近くもある大きな家だ。

どんな冷房方法をとっているのか気になった。

少なくとも一階のリビング周りにエアコンは見えない。

「エアコンはどこに?」と尋ねると二階の壁のてっぺんに付いているという。

そこから冷気が降りてきて一階二階全部が冷やされる。エアコンは常時稼働だ。
森口邸には出力4.3kWのエアコンが2台つけられている。

1台は冷房用で家の最も高所。

もう1台は暖房用で床下に熱が吹き出されるよう本体は半分床下に沈んでいる。

つまり、冷房は上から暖房は下からという定石通りの仕掛けだ。

エアコンの冷房能力は木造住宅11畳が目安と書かれている。

それにしても、約60坪の住宅の全室冷房が11畳用のエアコン1台である。

しかも普通より低い温度で冷房できていることにある種の驚きがあるが、それを可能にしているのは高い断熱性能と日射遮蔽である。

断熱性能は省エネ基準レベルを高断熱というなら超高断熱性能だ。

北海道基準をも上回る(下表)

二階 最上部のエアコン

断熱性能が高ければ保冷力は高まることはいうまでもない。

日射遮蔽は住宅の三方がほぼ隣家と接しているのでそれも幸いしている。

もう一つは室内空気の循環経路が上手くいっていることがあげられる。

これには、ちょっと説明が必要だ。

吹き抜けはリビングの南端に畳大の面積があって二階床に手すりが建っている。

この手すり、今は立ち上がりに透明のアクリル板が回っている。

当初はなかったのだが、ないと冷気が滝壺のようにそこからだけ降りてきてその下が冷たくなりすぎた。

立ち上がりをつけたらそれが緩和されて室内全体に冷気が拡散した。

これは推測だが、いったん二階床面に落ちた冷気が横に広がって階段から一階に降り、吹き抜けは空気上昇口に回って家全体の空気が大きな循環を円滑にしたのではないか。

階段から降りてくることは確かで、一階のリビングとの仕切り戸を開け閉めして調整しているという。

設計段階で空気の流れを考えてもその通り動かないケースは案外多いものだ。

森口邸のように、住んでいる人が住みながら工夫してみるのがいい。むしろ、そう考えるべきだと私は思っている。

階段を通じて循環する空気は戸の開閉で調節される

ビングにある吹き抜けが夏も冬も功を奏す

■暮らしの風景 夏

森口さん夫妻は長い間うさぎを愛玩していた。

ウサギは夏に弱く毎年夏になると食が進まず人間でいう夏バテで体力をひどく消耗していたという。

そのため、ウサギ用に冷房をかけるなど手をかけていた。

新しい家に移る頃にはもう寿命に近かったのだが、今の家になって夏バテもなく元気を取り戻し、結局この家で3年生きていて昨年亡くなった。

人間でいえば100歳とのこと。

動物は温熱環境のストレスに人間よりも敏感だ。

動物より強いから感じないだけで人も同じようにストレスを受けていることは事実だ。

ストレスのない家に住んでいると少しずつ体に力が蓄えられてゆくのではないかと思う。

森口さんは建材会社を経営していて交流が多い。

仕事で関係する親しい人が名古屋に来ると「ホテルより快適だから」とホテル代わりに泊まるという。

すっかり気に入ってしまって、「この頃ではビジネスホテルみたいに予約してくる時もある」と笑う。

たしかに、並のホテルは、冷房をかけたまま寝ようものなら風邪をひくような冷風は出るし、タイマーをかけても止まったら暑くて目が覚める。

この人の気持ちがわかる。

またある時遠来の客があって、温泉でも行こうかということになった。

ところが、その客人が「ここが一番よさそうだから温泉はやめよう」と言い出して結局、どこへも出ずに家で過ごした。

そんなわけで、今でも休日はどこへも出ないで自宅にいることが多い。

森口家では、夏は我が家が一番なのである。

こんなこともあった。法事があって森口家に15人もの人が集まることになった。

さすがに暑くなるかと覚悟したが、誰からもそんな声は出なかった。

家全体の容積が大きいから、多少熱が増えても吸収してしまうのかもしれない。

■土壁の家で高断熱

横井さんたちは夏の涼しさが心地よく安定しているのは土塗壁の影響もあると考えている。

「この家はクロスゼロの家なんですよ」という通り、森口邸の内装は木と土と石で仕上げられている。

特に壁は60㎜の土が塗りこめられている。

中部東海地方には昔から土壁志向がある。

近年、住宅業界はハウスメーカーの勢力が強い。

ハウスメーカーのような工業生産で画一的な住宅で土壁の家はできない。

また、建築費の公的補助や融資を受ける際、一定の断熱性能が求められるが、伝統的な土壁の家に相応の断熱材を入れることは容易ではなく、そんなことで土壁の家は減退するばかりである。

ところが、森口邸は極めて高い断熱性能である。 それなのに土壁とは、いったいどうなっているのか。

小会の中部東海支部では10年以上前から伝統工法の高断熱住宅技法を代表の鎌田教授から指導を受けて実践している。

壁の構造は下図である。

こういう施工は地域地域で家づくりに取り組む工務店でなければできない。

幸い、土壁高断熱住宅の実績ある支部会員仲間の協力もあって実現した。

■光熱費

森口邸は来客も多く、一般家庭よりおおらかに冷暖房しているように思える。

光熱費が実質どのくらいかかっているか算出してもらった。

太陽光発電を搭載しているので毎月の支払い電気料金とガス(給湯)料金だけでは実質のエネルギー消費量にはならない。

太陽光で発電中に使っている自家消費分は売電にも買電にも表れないからだ。

自家消費分は総発電量マイナス売電量で計算される。

それを加味した森口邸の年間(2017年7月〜2018年6月)光熱費は272,000円であった。

一方、同期間の売電量は267,200円である(太陽光発電8.78KW、売電価格38円)。

金額にすると年間わずか5,000円であるからほぼゼロに近い。

夏の日射が多い名古屋の気象条件を利用しての太陽光発電と暑さと対抗するかのようなガンガン冷房、その大半の熱は太陽光発電で賄われているという面白い構図が森口邸にある。

■一見、常識外れのようだが

森口邸は常識的には冷房し過ぎ(のような生活をしている)と思われる。

しかし、それもこれも、常識以上の断熱性能と暮らしの工夫が施されているからできることだ。

カンカン照りの真っ最中、23℃にに冷房しているといっても所詮日中のエネルギーはすべて太陽光からきている。

責められるものは何もない。

そんな高断熱高気密住宅・Q1.0住宅があっても面白いと思った。

■コラム

関西の家を訪問した際、「こんな家になるなんて思わなかった」と何人もの人に共通して言われた。

大阪広島では「こんなに涼しく暮らせるなんて、夏がこんなに快適になるなんて」と言われ、寒い飛騨高山では「こんなに暖かいなんて」と言われた。

光熱費が減少していたことも共通していた。

私は、住宅は大革新の時代に入っていると再三記述してきた。

「こんなに涼しく暮らせる」「こんなに暖かく暮らせる」「こんなに光熱費が減る」、それがそう遠くない時代に特別なことでなくなったら、今知らないで建てている人の家はあっという間に旧い家になる。