新住協 中部東海支部

ユーザーの皆さんに伝えたいこと

名古屋で高断熱住宅に取り組んで10年
ユーザーの皆さんに伝えたいこと

エンズホーム ㈱丸協

( 愛知県小牧市)

小縣 章浩

夏も冬も、より快適でより省エネな暮らしが可能になる高断熱住宅、住宅の断熱性能が大幅に進歩しています。

北海道東北で始まった高断熱住宅が今では全国に広まっています。

高断熱住宅の普及を担ってきたのは地域の工務店。

東海の大都市、名古屋エリアで10年前から高断熱住宅に取り組んできた若手住宅家に、地域工務店として、どんなことを考え、どんなことをして 取り組んでいるのか、投稿して戴きました。

これから、家の新築・リフォームを計画している方々、大いに参考になると思います。

高断熱住宅は閉鎖的だと誤解する人もいるがそうではない。住まいの基本性能として高断熱高気密がある。

■高断熱住宅への取り組みと新住協

今となっては大分前の話になりますが、住宅建築業界で、省エネ基準法の改正が囁かれた時期がありました。

その法改正が行われることで、日本の建築の温熱性能の底上げと、生活に欠かせないエネルギーの省エネ化が進むと期待されていました。

実際、改正の噂?をきっかけに建築業界では温熱に対しての意識が高まりました。
当時の私はまだ高断熱住宅に参入しておらず、このまま省エネと無関係の建築を作り続けていて良いのか?と感じて門をたたいたのが新住協です。

新住協に対する私の最初の印象は、〝気持ち悪い!〞でした。講習では「建築と温熱の話」、2次会でも「建築と温熱の話」、3次会でも「建築と温熱の話」と……。

新住協に加盟した当初は何を話しているのかさっぱりわかりませんでしたが、地道に勉強を続けていくうちに、なんとなくわかるようになってきたというのが本当のところです。

いい歳をしたおじ様達が、建築や温熱の事になると小学生の男子の様に、楽しそうに話す姿を何度も見ているうちに諸先輩方の高断熱住宅に対する気持ちの温度が伝わってきてしまったのか、一度高断熱住宅をつくってみたいと思うようになりました。

■施工中の現場で断熱効果を体験

私が初めて体験した「高断熱高気密住宅」は建築途中の現場でした。

当時の私の、つたない説明にもかかわらず、お客様が理解と共感を示してくれて「高断熱高気密住宅」を計画する事になりました。
その現場のことです。
2月頃だったと思います。打合せと確認をする為に現場に行くと、大工さんが今までの現場よりも薄着で作業をしていました。

気合いが入っているなぁと嬉しく思いながら、しばらく現場にいると、私も着ている上着を脱ぎたくなりました。暖かいのです。

これが私の初めて体験した「高断熱高気密住宅」になります。

この時「なるほど、これなら暖かい家になる」と確信しました。

■なぜ「高断熱高気密住宅」をつくるのか

なぜ「高断熱高気密住宅」をつくるのかと聞かれたら、「今までの住宅とレベルの違いを体験してしまったから一人でも多くの方にあの感動を味わってもらいたい」からと答えます。
人はいいものを知ってしまうと、なかなかそれから目を背けることができません。

勉強を重ねて、今は理論や根拠から説明する事もありますが、やっぱり一番はあの時に体感した感動です。

それを伝えたいと想いながら「高断熱高気密住宅」をつくっています。

開放的で明るい設計。断熱が夏冬と快適な温熱環境をつくる。

■勉強し過ぎで情報過多のお客様

今では「高断熱高気密住宅」という文字を目にする機会が増えて、お客様にも幅広く認知されるようになりました。

性能や快適を求める勉強熱心な方も多くなりました。

そんなお客様に共通している事は「情報が錯綜している」ことです。

皆さん「自分事」なので本当に熱心で、多くの住宅業者に出向き勉強しています。

しかし、訪問した会社毎に繰り広げられる業者側のポジショントークに惑わされて、何が正解かわからなくなってしまっている方が多い印象です。

■メリットとデメリットの両面を正しく知ることが大事

どんなに優れたモノでも必ずデメリットはあります。

例えば私は断熱材に高性能グラスウールを使っています。

グラスウールのメリットは価格と性能のコストパフォーマンスが良い事です。

デメリットは施工者による精度のバラつきがあることです。

しかし、施工精度にバラつきがあるから否定的な意見を並べるのではなく、自社の技術力を向上させる事でお値打ちに高断熱高気密住宅が提供できるという事が、お客様にとっても弊社にとってもWINWINの関係であると考えています。

採用している他の部材に関しても、デメリットはすべて説明するようにしています。

これからずっと住み続ける家なので細部に至るまでそのモノの特徴をお伝えしています。

そうする事でこれから建てる住宅に愛着が持てると思っています。

また、メンテナンスにおいても抵抗が少なくなると思います。
家は日用品と違って、飽きたから、新しいのが出たからといって建て替える・買い替える等はなかなかできません。

家を身近なものに例えると車に似ています。

車には月々の維持費もあれば燃費もあります。

車を買う時には誰でも気にします。

家も同じです。月々のエネルギー費用もあれば、健康で快適で安全な暮らしのためのメンテナンスもしていかなければなりません。

購入して手元に届くまでよりも、手元に届いてから住み続ける年月のほうがはるかに長いのです。

その年月を、モノの特徴、メリット・デメリット、万一の対処法も知らずに過ごすのか、メリット・デメリットを知った上で、家と向き合って過ごし ていくのかでは、10年、20年後、家の姿も性能も違ってきます。

そういう理由から、私は、専門性をもってデメリットをお答えし、これから何10年も共に過ごす家と向き合う「施主力」を私たちと一緒に高めていただきたいと思っています。

断熱気密の構造見学会

高性能グラスウールの充填施工

■断熱性能だけではない夏冬の快適さに重要なこと

私たちの活動する愛知県小牧市周辺地域は名古屋市の北に在り、日本の中心に近い場所に位置します。

夏は暑く、冬は寒い、年間を通して湿度が比較的高いといった気候条件にあります。

夏、湿度が高いと気温以上に体感温度は暑く感じ、不快指数も高くなります。
年間を通して湿度が高いため、不快に感じる期間が長く感じてしまいます。
そんな気候風土にあることを踏まえて、「夏に涼しい家」、「冬は暖かい家」に加え、湿度のコントロールを意識し、その3拍子が揃った家を「手の届く、低燃費で長持ちする家」というコンセプトで考えています。

例えば、「冬暖かい家」というのは、日射取得に有利な方位に。なるべく大開口を設けて日射取得率を高くし、太陽の恩恵を受けるように心がけます。

具体的には、QPEX(熱計算プログラム)により導き出される年間暖冷房費を目安に窓の大きさや方位などを設計に取り入れていきます。
ただし、単にそれだけの家を小牧市周辺につくると、夏は暑くて住むことができないか、夏季の冷房費用が極端に高くついてしまいます。
冬は日射を積極的に取り込む工夫をしますが、夏場は真逆で日射遮蔽の事を考え軒や庇などをなるべく深く、それぞれの地域特性に合った卓越風(その地域において季節ごとによく風の吹く方向)を考えながら設計する事が、お金を掛けずに快適な家を建てる第一歩になります。

夏冬の日射コントロールが住まいの快適性を高める

<お客様の声>

夏場の2階の暑さを少し心配していたのは事実ですが、過ごしてみての感想は「全然平気」だと感じます。

無冷房ではさすがに無理ですが、2階のエアコン一台で各部屋の温度差が少なくキンキンに冷えることのない春や秋のような自然な涼しさという感じです。

2018年 小牧市 W様

■断熱性能値だけではできない良質な家

Ua値(省エネ基準の断熱性能)の結果さえ満たしていれば良いと言う考えの住宅では、「数値は良いけどお金が掛かる」「数値の割には寒い」となる危険性もあります。

この地域ではそのような家も「高断熱高気密住宅」と言われているのが現状です。

大切なことは、私たち業者の人間が何を根拠に「高断熱高気密住宅」を推奨し、何を目指して「高断熱高気密住宅」つくるのかに対する明確な答えを持っているかどうかだと思います。

あくまでも「高断熱高気密住宅」は「少ない暖冷房エネルギーで住む」ための手段であり、それぞれの地域で「快適に低燃費に暮らす」ことだと考えています。

■夏の「高断熱高気密な家」で注意していること

「高断熱高気密な家」の快適さは、冬場に限ったことではありません。

夏場は、建物の断熱が外の暑さを室内に伝えにくく、エアコンで冷やした室内が保冷されます。

それは、隙間ができないように丁寧に施工し、高性能な断熱材やサッシなどの建材を使用して丁寧につくられているからです。
「高断熱高気密な家」で快適な夏を過ごすためには、断熱の他にも重要なポイントがあります。

それは、「日射侵入」にどう対処するかです。太陽からの「日射」によって、一度室内が暖められてしまうと、室内の熱を外に逃がしにくい「高断熱高気密な家」では、暑くなりすぎてしまう事も有ります。

「日射」を遮るために、住宅全体の断熱性能を高めることも重要ですが、熱の出入りが最も多い窓廻りの検討は、とても重要です。

軒をはり出して高度の高い夏場の日射を遮る、窓の外に外部用のブラインドやオーニングをつけるなど、「日射」から室内を守る手段を検討します。

すだれやよしずは安価で取り入れやすい日射遮蔽が出来るアイテムです。

外部での日射遮蔽が難しい場合は室内側からロールカーテンやカーテンを利用することも効果的です。

さらに、「日射」による窓からの熱の侵入を防ぐ指標として、サッシの「日射熱取得率」を重要視します。
「日射熱取得率」とは、簡単に言えば「日射による熱をどのぐらい室内へ伝えるか」を数値化したものです。

この数値が低ければ低いほど「日射」による熱を室内に伝えにくいということになります。

サッシの選定の際、熱の伝えやすさを示す「熱貫流率」に気が取られがちですが、これらの性能と並行して「日射熱取得率」も確認する必要があります。

convey_all_users012.jpg

東西の窓の大きさで日射を調整することもある。

■欠かせない熱計算

そして最後に冷房エネルギー量の確認をします。

窓の高さ、取付位置、庇までの距離、庇の出などの数値を暖冷房燃費計算プログラム「QPEX」に入力することにより年間冷房エネルギーを算出し、目標値に至るまでプランを練り直します。

こうすることで、快適な室内温度を保てるプランニングかどうかシミュレーションすることができます。
QPEXでは、年間冷房エネルギーの他にも、断熱仕様、部位ごとの熱損失、熱損失係数(Q値)、外皮平均熱貫流率(Ua値)、日射取得熱、年間暖房エネルギー、熱源別エネルギーなどがわかります。

住宅個々に断熱性能やエネルギー費用がまとまっていて、家がつくられた後のランニングコストの予測ができます。

■気密測定は一現場2回

高断熱高気密住宅の基本に忠実に、愚直に施工していく事を信条にしています。

何か変わったことをして消費者さんの目を引くキャッチーな事をしようとか、業界的に見て他社よりも秀でてやろうといった考え方は全くなく、あくまでも断熱気密の基本に忠実な施工を行い、断熱材が持つ性能を発揮できるように心がけています。

その成績結果として、「気密性」というものがあります。

それが皆さんご存知のC値、シーチ」というものです。
C値とは住宅の延べ床面積に対する「相当隙間面積」(隙間の大きさ・広さを示す数値)のことです。

C値は延べ床面積と隙間面積の比率で算出されますが、実際に建築された建物内で気密を測定する専門の機械を使って「気密測定」をすることができます。

「気密測定」では計画的に設けられた換気口などの穴を全て閉じた状態で、室内の空気を送風機で強制的に外に排出した時に生じる〝気圧差〞と〝風量〞で算出します。

「気密測定」は、内装着手前の1回、完成時に1回、合計2回測定し、目標とするC値をクリアできているのか確かめます。私はC値=0.5以下を基準としています。

高断熱住宅の設計に熱計算は欠かせない。一棟ごと個別に性能と燃費計算をする

■壁内結露にも注意が必要

壁内結露とは文字通り、壁の内部で結露が起こり、充填された断熱材の性能が落ちるだけでなく構造部材の腐朽という恐ろしい事態を招きかねません。

こうした事態を防ぐための壁内結露計算シミュレーションは確実にした方が良いと思っています。
目に見えない部分だからこそ、しっかりとした対策をすることがとても重要です。

■さらに高性能なQ1.0住宅への取り組み

私が加盟している新住協では、Q1.0住宅という、省エネ基準の数倍の高性能を誇る高断熱住宅があります。
私も、当然取り組んでおります。

Q1.0住宅を語るとき、冬の寒さと暖房エネルギーといった冬季を中心とした話題が多く議論されている様に感じますが、私たちの活動する東海地方の気候は冬だけ凌げば良いといったものではなく、夏の暑さや冷房エネルギーの対策も取らなくてはなりません。

「夏はこっちの家で、冬はあっちの家で過ごそう!」なんて生活はなかなかできません。

なので、南側に大開口を設け、冬に寒くならないための日射取得率を高く保つプランニングをした後には、夏に暑くならないための日射遮蔽率を高く保つプランニングが必要になります。

そのようにして年間にわたって健康的で快適な室内環境を保つためにも、低燃費な東海版Q1.0住宅づくりを発信し、より一人でも多くの方に低燃費で快適なQ1.0住宅が建築されて行って欲しいです。

目先の建築費用で判断するのではなく、生涯のエネルギーコスト、メンテンナンスコストなども建築費と捉え、目先の数値だけ良い住宅の被害者にならないように気を付けて頂きたいと思います。

また、大切な家族の死亡原因が家の性能不足によるものだったとならない為にもQ1.0住宅をお勧めしたいと思います。

<お客様の声>

正月に築40年位の実家に帰った時に、その寒さに驚きました。

今までは実家暮らしで、寒いとは思っていましたがここまで違うのかと正直驚きました。

両親はその寒さに慣れているようでしたが、少し厚着で靴下も厚めをはいてしのいでいるかの様でした。

あの温度差のストレスを考えると価値あると考えてます。

名古屋市 Ⅰ様

convey_all_users014.jpg

床下放熱式エアコン暖房のイメージ図

<お客様の声>

床下エアコンを採用するまでは半信半疑でした。《暖かい》というよりは《寒くない》と思ってくださいと言われていましたが、使ってみての実感は【暖かいです】。

私たちは21℃設定で過ごしていますが、十分快適に過ごせました。
気のせいかよく寝られる気がします。ひとつ困った事と言えば、家が暖かいので出かけるときに上着を忘れて出かけてしまうこと位でしょうか?

犬山市 O様

convey_all_users013.jpg

エアコンの床面設置

■URBAN OUTDOOR】ライフを楽しむ設計とQ1.0住宅

高断熱高気密住宅に抱くイメージは、とにかく断熱材で家をくるむだけで、デザインや生活の楽しいイメージが描けないと思われている方も多いと思います。

実際過去に私もそのようなお話をご来社いただいたお客様から聞いたことがあります。

省エネ至上主義に偏りすぎて【家に帰る楽しみ】や【生活の中にある楽しみ方】を犠牲にしてはいけないと私は思います。

高断熱高気密住宅で性能が担保されているからこそできる大胆な提案で、半外空間を作ったり、非日常を楽しむための工夫をする事で、より家が好きになって貰えたら良いなと考えています。
小牧市周辺地域は名古屋市の住宅密集地に比べると、ゆったりとした土地が多いため、平屋やこだわりの庭、ガレージ付き住宅、大きなバルコニーやデッキのある家を多く提案させていただいております。

生活に必要な家の要素に加えプラスの要素を希望されるお客様も多いと思います。

これらのプラスが家の「高断熱性高気密性」を脅かすことはありません。

むしろ共存しています。

それは家自体の性能が担保されているからです。

家は当然ながら「高断熱高気密住宅」で、ガレージやバルコニーを庇の代わりにすることで、日射を抑制するなどといったトータルプランニングで室内の快適性を保ちながら、外部との緩やかなつながりを持ち、手軽に庭に出てBBQや家族と庭ゴハン等、住まいを隅々まで遊びつくせる家を提供しています。

このように家自体の性能が担保されることによりプランニングにも大きな自由度が増します。

「高断熱高気密住宅」は住まいを遊び尽くす為の手段の一つでもあります。

■これからの住宅や業者に求められる事

【冬は暖かくて夏は涼しく】と言う事は既にお客様から当たり前のように求められる時代になりました。

我々業者はその根拠を「QPEX」等のシミュレーション結果を基に数値を用いたエビデンスと「体感は人それぞれなので数値はあくまで目安」という正直な数値の説明が必要不可欠だと思います。

また、過去に成功した事例が今後成功し続けるとは限らないと考え住宅供給側としての探求心と新しいことにチャレンジする姿勢も必要だと思います。
世界的パンデミックを引き起こしたコロナウイルスで外出自粛要請を受ける中、リモートワークやテレワークなど家で過ごす時間が長くなりました。

それにより今後の暮らしにおいて、住宅の重要性が再定義され家での過ごし方の在り方が変わりつつあるように思います。
日常生活の中に今まで以上に癒しと安らげる瞬間が求められるようになるように思います。

例えば窓を開けて外の美味しい空気を胸いっぱいに吸い込み家族とその瞬間を分かち合う。

雨の日は落ちてくる雨粒を見ながら少しだけ日常から放れてみる。

すぐそこに目をやれば植栽の緑や果実が心を癒してくれる。

そんな時間を過ごすためには、私たちの中にある行き過ぎた合理主義からの脱却が必要なのではないかと感じます。

生活のなかに【あそび】 を設けることが、日常の行き過ぎた合理主義から少しだけ距離を置ける瞬間。

そんな家つくりがこれからは重要になるのではないかと感じています。

デザインと性能の両立