新住協 中部東海支部

住宅にも格差が生じ始めたか

住宅にも格差が生じ始めたか

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(一社)新木造住宅技術研究協議会

顧問 会沢健二

医療格差とか教育格差とか、いつの頃からか格差という言葉を頻繁に聞くようになった。

医療や教育は、どこでも同じようなものと思っているが、現実には大きな差が生じていて、それを私たちは知らないだけだという。

所得格差もある。どれもあまり響きのいい言葉ではない。

■ある医療格差の話

2019年8月、朝日新聞にこんな記事が載っていた。

札幌のある医師が、利尻島に住んでいた中学生の頃、目の病気に罹り、対岸の稚内に船で2年間も通院した。

色々手を尽くしてもらったが治らなかった。

ところが、日が経って札幌の病院に行くと、2週間の入院で完治した。

医療技術の余りの違いに驚いたというものだった。

■知っていたら結果は違う

私は、この記事を読みながら、これは住宅でも同じだと思った。

拙著『この「家」にしてよかった。』1号が発行された直後、本に掲載された会員工務店に、富山市の人から次のようなメールが寄せられたことを思い出したからだ。

その人は、高断熱住宅を建てたつもりで暮らしていたが、初めての冬、聞いていたほどの暖かさではなかった。

多少の違和感はあったがこんなものかと思って暮らしていた。

しかし、それが本物の高断熱住宅ではないと後で知った。

そもそも性能が悪かったのだ。

こんな悔しいことはない」という内容だった。

一方で真逆の話がある。

広島のある老夫婦は、ただ単にお向いさんだからという理由で、その工務店に住宅建築を依頼した。

依頼するとき高断熱のことは知らなかった。

ところが、入居して驚いた。

冬の暖かさ、夏の涼しさが本当に快適で、一生ここを離れたくないと真剣に願うほどの家だったのだ。

利尻の少年が、もし札幌の病院を知っていたなら2年間もの通院をせず、札幌の病院に行ったであろう。

それと同じように、富山の人が、もし広島のような高断熱を知っていたらもっと違った家づくりに臨んだことと思う。

■超高性能住宅は特別ではない

広島の人が、期せずして、思いもかけない快適な家を入手できたのは、その工務店が、もう何年も前から、そういう住宅だけを建てていたからだ。

実は、私たち(新住協)はそれが当たり前の性能だと、確信して家をつくっている。

超省エネ、超高断熱住宅のつくり方で大事なことは、開口部(特にガラス)、熱交換型換気機器の採用、壁の付加断熱と紹介している。

(勿論、正しい断熱気密施工が大前提にある)今回、それらが一体どのくらい普及しているのかを調べて、「新住協本州の会員100社の最新断熱仕様」の結果を記載した。重要な3点全てが80%近くの採用率になっていた。

それぞれが、予想以上に広く採用されていることにあらためて驚く。

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さらに、特筆すべきは、断熱性能である。

国交省の省エネ基準はUA値(外皮の平均熱貫流率)で表されるが、その最高基準(北海道最寒地域)0.46よりも、大きく優れた0.36であった。

それが100社の平均値であることがすごい。

これは、現在できる最高クラスレベルの高断熱住宅と言っていい。

これが、1戸2戸建てられた話ではなく、東北から関東、関西まで含む100社の平均なのだ。

もはや、私たち新住協だけが特別だと言える話ではない。

100社の最新住宅から集計したということは、その瞬間、少なくとも本州各地で100の超高断熱住宅が建てられたということになる。

その一方で今までと変わらない家が、その何倍も建てられている。

だから、富山のような哀しい現実が生まれる。

これは、もはや「住宅格差」ではないか。

そう思うのだ。

前述した広島のような話はいくつでも挙げられる。

■中部東海の現場で行われていること

実際、ご当地中部東海、北陸ではどんな住宅が建てられているのか。

その性能レベルはどんなものなのか。

今回は掲載各社の性能データ欄を是非ご覧いただきたい。

専門用語もあって難解に見えるが、チェックポイントは一点でも構わない。

表の赤枠の「Q1.0住宅レベル判定」部分である。

年間暖房エネルギー消費量が省エネ基準の何%に相当するかでレベルが表示される。

レベル1で省エネ基準の40%になる。

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表②は18

社のレベル別一覧である。読者の皆さんは、省エネ基準レベルの少ないことに意外に思うかもしれない。

今、住宅は大きく革新中であると知って欲しい。

快適な環境はしっかりした高断熱から生まれる。

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■住宅にも格差が生じ始めた

今、多くの住宅メーカーは依然として省エネ基準に準じた家づくりをしているのが現状である。

長期優良住宅の断熱性能は省エネ基準でよしとしているから、当然、そのレベルの住宅が建てられていることになる。

しかも、断熱構造が正しいかどうかが怪しいとさえ言われるから性能が出ているかどうかも懸念される。

一方で、その数倍の断熱性能をもつ住宅が、前述100社のような工務店によって建てられている状況を、何と表現すればいいか。少なくとも、それらを入手したユーザーは「今や住宅にも格差が生じ始めた」と言うのではないか。

■「もう昔の大工には頼めない」

ある冬の完成住宅見学会でのこと。

近所に住むという一人の来場者があった。

その人はまず、家全体が暖かいことに驚き、次に、エアコン1台で暖房されていることを知ると、次第に言葉少なになった。

そして帰る時にこう言った。

「私は親が家を建てた時から数えると計3回家を直した。

しかし、こんな暖かい家にはならなかった。

もう昔の大工には頼めない」私はその言葉が深く印象に残った。

その人の言う「昔の大工が建てている住宅」と、今、多くの住宅会社が量販している住宅の断熱構造は、本質的な部分で変わっていないのではないか。

もし、エアコン1台で暖かく暮らせるような性能があるなら、下の写真のようなことにはならないはずだ。

私たちは、住宅格差を広げるのではなく、格差解消に向けて、本当に高性能な家を多くの人に知って欲しいと思っている。

この住宅雑誌もその一環だ。

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